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千分の一話噺

第331章 月見酒


「今夜、一杯付き合え…」
「わっ、私ですか?」
「ここにはお前の他に誰もいない
何か用事でもあるなら…」
「ぃ、いえ、大丈夫です!」
先輩からの突然のお誘いに私は声が裏返ってしまった。


春の異動で配属された職場にいた先輩は、一見ワイルドな感じの近づき難い人だけど、口下手なだけでとても優しい人だった。
プライベートをあまり見せない人だけど、彼女はいないみたい。
私は一緒に仕事をするようになって、すぐに気になりだしていた。

仕事が終わって、一緒に電車に乗って、降り立った駅は片田舎…。
「そこで酒買うぞ」
先輩は駅前のコンビニに入った。
「ビールにするか?カクテルみたいなやつにするか?」
「えっ、じゃあこれで…」
私はいつも飲んでるカクテルを選んだ。
(…まさか、いきなり先輩んち?)
私はどぎまぎしながら先輩の後に着いていった。

「すまんな、こんな所で…」
公園の入り口だった。
「先輩、ここって?」
「もうちょっと歩くぞ」
先輩は公園の中へ入っていく。
私は慌てて後を追い掛けた。

小高い丘の上に出ると、遠くに街の明かりが見える。
「わぁ綺麗!」
「俺のお気に入りの場所だ」
先輩はコンビニで買ったお酒を私に渡した。

ベンチに座ると先輩が…
「見上げて見ろ」
夜空には十五夜の満月が浮かんでいる。
「すごい!手で掴めそうですね」
「お前にこれを見せたかったんだ」
私達はお月様に乾杯した。

どんなにお洒落なお店に行くよりも、私には最高の飲み会になった。


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