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千分の一話噺

第328章 続・歌を忘れた…


盂蘭盆の最後に焚かれる送り火…。
お盆に帰ってきた魂を送り返す為に焚く。

それは冥界へと誘う炎。

私も連れて行って欲しいと願ってしまう。
彼の地へ行けば、彼に会える、この命にいまさら未練などない。
ただ、もう一度貴方の為に…。


お盆には亡くなった人の魂が帰ってくるとされる。
もちろん、現代において信じている人などいないだろう。

日本では古くから行われている宗教的行事として残ってるに過ぎない。
しかし、頭では理解していても心がそれに何かを求めてしまうのも人間ならではなんだろう。
いまだに宗教がなくならない理由も同じ様なものである。

私は送り火を見詰める。
炎はまるで水面の様に揺らめく。
その炎の中に彼の笑顔が、水面に映る月の様に見えた気がした。

自然に涙が溢れ、いつの間にか歌っている自分がいる。
自分の為だった歌が、彼に会えて世界が広がった。
誰かの為に歌う喜びを知った。

でもあの日以来、どんなに歌おうとしても歌う事が出来なかった。
プロである以上、それは許される事ではなく休業を余儀なくし、ファンや関係筋に多大なる迷惑を掛けた。
そんな私が今、歌っている。
彼が導いてくれたあの世界にまた戻れる気がした。

「…私、また歌って良いの?」



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