第318章 名探偵の調査ファイル
俺はこの前の報告書を書き上げた。
「…では、後ほど」
依頼人に電話をして報告書を渡す事を告げる。
「はぁ…辛いなぁ…」
俺は溜め息を吐いた。
依頼人は調査対象者・小林冴子の父親。
「一人暮らししている娘の様子が変わったので調べてほしい」との依頼だった。
小林冴子は朝出勤してから退社するまでは社内からは出て来ない。
その間に聞き込みを進めると、やはり人が変わった様だと感じる人が多かった。
見た目は華やかなで、退社後の夜遊びも派手だった彼女だが、ある事故をきっかけに夜遊びを一切しなくなったと言う。
その事故とは、冴子の高校時代からの親友・田中幸枝が事故死した件であった。
ついでに幸枝の件も調べてみたが、これは紛れも無く事故死で身寄りのない幸枝を冴子が弔ったと言う。
が、二人を調べる内に俺はある結論に達していた。
依頼人・小林邸に赴き、報告書を渡した。
報告書に目を通した父親の顔が見る見る青ざめていく。
「これは本当なのかね?」
「証拠はありません…
が、入院している冴子さんのDNA鑑定をしてもらえれば分かると思います」
正直、言いにくい話しだ。
「…ありがとう」
父親はうなだれたままだったが、俺は報酬を受け取り病院へ向かった。
冴子に調査の事を話した。
冴子は取り乱す事なく「何で分かったの?」と小さな声で応えた。
「決めてはそのルビーのピアスだよ」
彼女の右耳には小さな紅いピアスが着いている。
「君達二人は高校の頃、一組のピアスを分け合った
幸枝は右耳、冴子は左耳に着けている写真を見付けたんだ
…すぐに父親が来るだろうから正直に話すんだな」
「…冴子は私の中で生きてるの」
「…だったら、君が死ぬわけにはいかないだろ?」
そう言って病室を後にした。
ドアが閉まる寸前、「ありがとう」と微かに聞こえた気がした。
end