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千分の一話噺

第314章 石の月


月を見上げ、手を伸ばす。

大きく見える満月は掴めそうでも届かない。
当たり前な話しだが、それでも俺は手を伸ばす。

もう少し…。

もう少し伸びた所で届くはずもない。
月は天高く遥か彼方…。
手が届く場所じゃない。

そんな事は分かりきっている。
「…分かっているんだ
それでも…
それでも…」


月なんて、たかが丸い石ころだ。
太陽の光りを反射し、あたかも自ら淡く輝いている様に見えるが、宇宙空間に浮かぶ命無き塊に過ぎない。

しかし、そんな場所だからこそ、人は月に何かを重ねて見上げる。
光りと影が織り成す月の満ち欠けに侘び寂を感じる。

そこに何が見えるのか?そこに何を見るのか?
それは誰にも分からない。
自分自身の心が映し出す幻影だから…。
俺は手を伸ばす。
月に届けと…。

「別に月が欲しい訳じゃない
月に浮かぶ幻影を取り戻したいだけだ」

そう、二度と手にする事が出来ない幻影を…。



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