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千分の一話噺

第312章 菖蒲と花菖蒲


花菖蒲と菖蒲は違う植物であると言うのは有名な話しである。

「彼女達は、言わば菖蒲と花菖蒲の様なものだ」

彼女達を知る人は皆そういう。
菖蒲と例えられた娘は田中幸恵、花菖蒲と例えられた娘は小林冴子といった。
ぱっと見は双子と間違えるくらい似ている二人だが、まるで正反対と言える性格なのに仲が良い。
いや、良かったと言った方がいい。
幸恵が事故で亡くなったのだ。
身寄りはなく、身分証などもなかった幸恵は、冴子の証言と幸恵の部屋で採取した指紋で本人確認が行われた。
荼毘は冴子が見送った。

しばらくして、一人の刑事が冴子を訪ねた。
その刑事は冴子を学生時代に補導していた。
「君は…誰かな?」
数年ぶりに会った二人だが、刑事はこの娘が違う人物だと気付いた。
「…何の事かしら?」
冴子は白を切った。
「警察は幸恵さんを事故死とした
身寄りもなく異議を唱える者もいない…
だが亡くなったのは冴子さんで、君は幸恵さんなんじゃないのか?
…何の為なんだ?」
刑事の言葉に冴子は沈黙を通した。
「…だんまりか
まぁいい、今日は個人的に来ただけで、警察はこれ以上動かないだろう…
だが、この事はそのうち君を苦しめる事になるぞ」
刑事はそう言い残し帰って行った。

「私は…冴子よ
幸恵は死んだの…」



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