第300章 招かれた名探偵
改元を迎えた五月一日。
夕方、事務所に帰ると佳奈ちゃんが待っていた。
「探偵さ~ん
おばさんがちょっと来てって!」
これは絶対、オーナーの無茶振りだ。
かと言って無視する度胸は俺にはない。
オーナーの住まいは事務所ビルの最上階(と言っても五階…)だが、呼ばれる事はあまりない。
「オーナー、どうしたんすか?」
俺が部屋に入ると良い香りがした。
「新しい天皇陛下が即位されたからお祝いだよ」
テーブルには料理が並べられてあった。
「私とお母さんも手伝ったのよ」
見れば佳奈ちゃん一家も揃ってる。
「どうも、佳奈の父です
いつも佳奈がお邪魔してるみたいで…」
「これはどうも…
佳奈ちゃんはオーナーと仲が良いので…」
初対面の親父さんと顔を見合わせお互いに苦笑いだ。
食事を済ませると香りの強いお茶が出てきた。
「何のお茶?」
「ミントのハーブティーよ」
佳奈ちゃんの母親が最近ハマっているそうだ。
お茶を飲みはじめると佳奈ちゃんが目をキラキラさせながら…。
「探偵さん、鼠さんとの対決聞かせて♪」
やはりそうなるか…。
「対決と言っても、警察に協力しただけだからな…」
鼠は予告通り美術館に特別展示された『写楽』を狙ってきた。
美術館に何人もの鼠が現れたのにはさすがに度肝を抜かれた。
本物の鼠はその混乱に紛れて盗み出そうとしていた所を俺が飛び掛かった。
「おや、もう気付きましたか?
ですが、今日も頂きますよ」
「何度もやられると思うな!」
俺の叫び声に警官隊が押し寄せ、さすがの鼠も逃げるがやっとの様だ。
「くっ、今回は負けを認めましょう」
鼠には逃げられたが、とりあえず『写楽』は盗られずに済んだ。
捕まえた偽鼠達は金で雇われたアルバイトだった。
「…って事で、また逃げられた」
「でも凄い♪さすが探偵さん♪」
佳奈ちゃんは大喜びだ。
「ほう、頑張ったな名探偵
褒美に今月の事務所代半額にしてやるよ」
「…半額…ね」
このオーナーにゃ敵わない。
end