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千分の一話噺

第290章 キャスティング


「霞草のような人になりたい」

いつだったか忘れたが、昔そんな台詞を吐いた女性がいた。
俺は何て答えたんだろう?
全然覚えてない。

霞草と言えば、花一つ一つは小さいが花束では他の花を引き立てる名脇役であり、数種類の違う花を綺麗に纏める役割もある。
その献身的な姿や役割が、『無垢の愛』という花言葉の由来となっているそうだ。

しかし、『霞草のような人』と言うと、名脇役とはちょっと違う気がする。
『その他大勢の一人で良い』と言っているようなものだ。

「ラナンキュラスみたいな人になる」

こう言い切った女性がいた。
鮮やかで豊富な色と幾重にも重なりあったボリュームのある花が特徴のラナンキュラスは明らかに主役となる花だ。
花言葉の『とても魅力的』『晴れやかな魅力』『光輝を放つ』は、どれも主役となるに相応しい言葉ばかりだ。
「女優にでもなるつもりか?」
俺の言葉に、彼女はくるりと一回りして妖しい笑みをみせた。
華やかで目を見張る彼女なら、女優でもモデルでもアイドルでも熟せるだろう。

俺はどうだろか?
主役か?その他大勢か?
その他大勢なら大抵の人がなれる。
しかし、主役となるにはそれなりの素質が必要だろう。
「主役にはなれないが、その他大勢にもなる気はない」
それが俺の答えだ。



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