第284章 お守り3
「あぁ美味しかった♪
ご馳走様でした」
稲葉様の妹さんの笑顔、お兄さんが甘やかすのも納得してしまう。
「女将さん、明日の朝日が見たいからモーニングコールお願い出来ますか?」
「こら!面倒掛けるな!」
「面倒だなんて、そんな事ありませんよ
朝日が昇る前にお電話致しますね」
私が部屋を後にすると、すぐに妹さんが追い掛けてきた。
「女将さん、ちょっといい?
マジで彼氏いないの?」
「えっ?本当ですよ」
お兄さんが怒るのも頷けるわね。
そこから妹さんの一方的な話しになった。
「じゃあじゃあ、アニキなんてどう?
あれでも元甲子園球児でそこそこイケメンだし、性格だってバカ正直でお人よし過ぎるくらいなんだから…
それにね、今勤めてる会社がブラック企業で辞めたいみたいなんだ
この旅館で住み込みで働かせてくれたらアニキ喜ぶと思うんだよね
アニキの性格なら旅館の仕事って絶対向いてるし…
妹の私が言うのも何だけど、超お得な物件よ」
圧倒されてしまった。
「ちょっと…ちょっと待って…
お兄様にも選ぶ権利があるし、私は悪い女かも知れませんよ?」
「それなら大丈夫!
アニキは女将さんに一目惚れしてるし、それに私の人を見る目は確かなんだから!
それじゃあ、明日の朝よろしくね」
妹さんは言いたい事を言って行ってしまった。
呆気に取られるとはこういう事なのかと思った。
翌朝、モーニングコールをしてから海岸に出た。
しばらくすると二人がやってきた。
「女将さん?」
二人とも驚いている。
「おはようございます
私服のままですみません
和服は仕事着ですから…
もうじき日の出ですよ」
穏やかな海から昇る朝日は、今日も美しかった。
「これから近くの神社にお参りに行くのですが、よろしかったらご一緒に行きませんか?
今、梅の花が綺麗に咲いてるんですよ」
昨日妹さんに言われたからではないけど、日課でもあるお参りに誘ってみた。
「私は部屋に戻ってもう一眠りするから、アニキは行ってきて!」
妹さんは私にウインクをしてお兄さんの背中を押していた。
私は一つ賭けをする事にした。
今日のお参りで鶯が鳴いたら、妹さんの話しに乗ってみるのも良いかもと…。
end