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千分の一話噺

第282章 お守り


そこは小さな海岸沿いの小さな町、そこには小さな旅館が一軒あった。

旅館の前には、小さいがそれは美しい海岸があり一番の自慢だが、逆に言えばそれしかなかった。
「ここ、ここ!
今の時期は朝日が真正面に上がって凄く綺麗なんだって!」
「はいはい、分かったからはしゃぐなよ」
何で俺が妹のお守りしなきゃいけないんだ。

歳が十も離れているから、めちゃくちゃ可愛い妹ではあるけど休みの日くらいは家でごろごろしたかったのに…。
「いらっしゃいませ
お待ちしてました」
旅館の入り口で女将が出迎えてくれた。
旅館の女将らしく和服を着こなし凛とした佇まいに目を奪われた。
「………」
「アニキ、何ぼぉーとしてんのよ」
妹に脇を小突かれ、我に返った。
「あ…、よ、予約した稲葉です」
「はい、受け賜っております
どうぞ、こちらへ…」
微笑む女将に促されカウンターで宿泊名簿に記入した。

部屋に案内されると妹が女将に質問した。
「女将さん、明日の日の出って何時頃ですか?」
「そうですね、今日は5時45分でしたから明日も同じくらいだと思いますよ」
女将は物腰柔らかく答えた。
「ねぇ女将さんって独身ですか?」
妹がとんでもない事を口走った。
「おっ、お前何聞いてんだ」
「だって、左指に指輪してないから…」
目ざとい妹だ。

しかし、右指には海のような青い宝石の指輪をしていた。
「はい、まだ独り身です」
「じゃあ女将さん目当てでお客さんいっぱい来るでしょ?」
「バカ!
すいません、妹が失礼な事を…」
俺は慌てて妹の頭を押さえ謝った。
「仲が宜しいですね
今日のお客様は稲葉様だけですから、ごゆっくりして下さい」
女将はゆっくり頭を下げ部屋を出て行った。
「女将さん若いし綺麗だったね
アニキ、チャンスかもよ」
「バカ!大人をからかうんじゃない」
妹のお守りのつもりが思わぬ休日になるかも知れない。


to be continue…
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