第277章 麗らか
『…今日は楽しいひな祭り~♪』
とあるスーパーに入ると催されていたひな祭りフェア。
ひな人形が飾られ、彩り鮮やかに並べられた雛あられや桜餅や女子受けしそうな桃のスイーツ。
その片隅にひっそりと佇む菱餅。
私はそれを手に取った。
紅白緑の三色は春を感じさせる。
最近はお菓子で作られている物が多いが、これはちゃんと餅で出来ていた。
白い雪が溶け、下から新たな緑が芽吹き、上には桃が咲き始める。
春の訪れ。
菱餅を土産に帰り道、アスファルトとコンクリートの街を漫ろ歩き。
道の片隅、ふと目に留まる小さな黄色い花。
アスファルトの隙間、ビルの隙間の僅かな日溜まり。
可憐な姿とは裏腹なその逞しさ。
私はたんぽぽに指を伸ばす。
春の使者はこんな所にも訪れる。
軽く弾いて挨拶代わり。
「帰ったら緑から食べようかな…」
陽気に釣られて出た散歩道。
季節は間違いなく変わっていた。
end