第273章 fantasia
「今日のお鍋も美味しそうだねぇ」
「何しみじみしてるんです?
いつものお鍋じゃない」
「私はいったい君の作ったお鍋を何回食べたんだろうね?」
「何言ってるんですか?
もう四十年も連れ添ってるんですよ、そんなの数えてる訳ないじゃない…」
「そうだよね…
じゃあ私は後何回、君の作るお鍋を食べられるんだろう?」
「えっ?今日はどうしたの?
まだお酒も呑んでないのに…」
「はい、どうぞ」
「ありがとう
君も一杯どうだい?」
「じゃあ、一杯だけ…」
「一杯と言わず、今日は一緒に呑もう」
「やっぱり君のお鍋は美味しいね」
「…お酒が付いてるからでしょ?」
「それもあるかな…
でも、君が作る料理は何でも美味しいから…」
「もう酔ったの?
おだててもこれ以上のお酒は出しませんよ」
「ばれたか…
けど美味しいのは本当だよ」
「はいはい
そろそろ、〆のおうどんにしましょうか」
「お鍋のおツユで煮たうどんは何でこんなにも美味しいのかな?」
「…そうね
あなたみたいに、いろいろな味が滲み出たおツユだからじゃないの?」
「…そうか?」
「えぇ、そうよ」
「美味しかったよ
ごちそうさま…」
end