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千分の一話噺

第271章 名探偵の思い出


「はい♪探偵さん」
佳奈ちゃんが事務所に来るなり小さな包みを俺に差し出した。
「ん?何だ?」
「今日はバレンタインデーよ
だから探偵さんにもチョコあげる」
「おぅ、…ありがとうよ」
俺はチョコを受け取り、佳奈ちゃんの頭を撫でた。

まさか、まだこの俺にバレンタインのチョコをくれる娘(こ)がいるとは…な。



「はい♪これっ!」
彼女は小さな包みを俺に投げてよこした。
「何だ?これ?」
「チョコよ、義理チョコだけどね
どうせ、誰からも貰えないんでしょ」
彼女は軽くウインクしてみせた。
「うるせー、俺は甘いもんが苦手なんだよ」
俺が学生の頃はまだバブルの名残もあり、バレンタインデーと言えば、誰から貰ったとか何個貰ったとかが色男のステータスみたいに言われていた。
俺自身はそんな事は気にしていなかったし、甘いもんが苦手なのも事実だ。

しかし、彼女からのチョコは義理チョコでも、正直驚いたし嬉しくもあった。
「俺にチョコなんか渡して良いのか?」
「なんで?私の勝手でしょ?」
「俺がどんな男か知らない訳じゃないだろ?」
学生の頃の俺はいわゆる不良で、彼女は生徒会にも入る優等生だった。
同じクラスではあったがほとんど接点もなく話しをした事もない。
俺の事など目にも掛けていないと思っていた。
「この前、犬を可愛がってたでしょ?
私、もっと怖い人かと思ってた」
「あっ、あれ見てたのか?」
俺は苦笑いするしかなかった。
それをきっかけに仲良くはなったが、結局恋愛関係にはならなかった。



「どうしたの探偵さん?ぼーっとして…」
佳奈ちゃんの言葉で我に返った。
「ははっ、ちょっと昔を思い出してな…」
バレンタインデーには苦笑いしか出て来ないな。



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