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千分の一話噺

第256章 歌会


「此処は?」
辺りを見回すと貴族らしき人々が優雅に過ごす雅やかな世界が広がっていた。
「平安?…まさか……夢か?」
私は冷静に考えた。此処に来るまでの記憶がない。しかし、夢にしては鮮明であるし感触もある。穏やかな陽射し、頬を撫でるそよ風、鼻をくすぐる香の薫り…。
信じられないが現実の様に思えた。
「そんな馬鹿な…」
「…どうなされた?」
困惑している私に声を掛ける者が現れた。束帯(そくたい)と呼ばれる平安貴族特有な衣装を纏った男だ。私は答えに困った。この世界で洋服を着ている私は明らかに不審者だ。だが、その貴族はそんな事は意に介さなかった。
「これから歌会がある
そなたも出られよ」
「…はぁ?」
彼は私に有無を言わさず歌会の場に連れ出した。

高貴と思える人々が並んでいる中、場違い甚だしいはずの私に誰も何も言わない。その場の奥に簾が掛かった場所がある。この雰囲気からするとあれは多分玉座だろう。皆、緊張している様だ。

順番に短歌が詠まれていく。リアルな百人一首だ。私の番まで後数人…、どうする?私はまともに短歌などを習ってはいない。文字数を合わせるのがやっとだ。

『黄昏れる
浮世の定め
鑑みて
成すべき明日
託す彼方へ』

歌を詠んだ瞬間、夢から覚めた。否、現実に戻ったと言う方が正しい。私の歌がどう評価されたのか知りたい様な、知りたくない様な…。


end
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