第251章 屋台
霧深い夜道、遠くに赤い小さな明かりが見える。
俺はそれを頼りに歩き出した。
(なんだ、これは?
さっきまで霧なんて出てなかったし、街明かりまで消えるなんて…)
会社からの帰り道、ちょっと躓いてコケそうになった。
片手を着いたがすぐに立ち上がり数歩歩いて異変に気付いた。
一面の霧、消えた街明かり、そこは街の喧騒さえなく静まり返っていた。
(とりあえず、あの明かりに行けば何かあるはず…)
赤い光は近づくにつれ形を現わした。
「赤提灯?」
屋台に赤提灯、暖簾には『おでん』の文字が…。
周りを見渡すが、霧に阻まれ何も見えない。
俺は仕方なく暖簾を潜った。
「いらっしゃい…」
無愛想な感じのじいさんが湯気の向こうにいた。
「ふぅ…こんなに霧が深くなるなんてねぇ」
「…何にします?」
「あっ…、大根と竹輪麩と玉子で…後、冷や酒を…」
やっぱり無愛想だ。
「…お待ち」
親父はおでんの皿と酒の注がれたコップを置いた。
大根に箸を入れ、一口大を頬張った。
大根のほろ苦さと凍みたダシの旨味が相まって…。
「美味い!」
思わず声に出していた。
しかし、大根にしては色が黒っぽい。
竹輪麩は関東のおでんネタで、これもダシが凍みて美味い。
けど、ちょっと歯ごたえがある。
それに黒っぽいのは醤油が濃いのかと思ったが、醤油の香りはほとんどなく何か違う調味料を使ってるのかな?。
玉子を割って驚いた。
黄身の部分が真っ黒な玉子。
「なっ…何だ?この玉子は?」
親父の顔を見た。
親父はニヤリと笑う。
「それはのガーゴイルの目玉…
そっちはマンドラゴラの輪切りに水竜の血管さ」
「えっ…目玉?血管?」
俺は一瞬頭が真っ白になり、すぐに吐き気を催した。
「あんた、どうやってここに来れたか知らないが、その酒を呑めば帰れるぞ」
俺は慌ててコップの酒を一気に喉へ流し込んだ。
街明かりに耳障りな喧騒、そして右手にコップ…。
end