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千分の一話噺

第241章 思い出


「冷てぇ!
なんで水なんだ!?」
俺は思わず風呂場で叫んだ。


突然、給湯器が壊れた。
修理を頼むにしても今すぐ直る訳じゃなし、俺は仕方なく近くの銭湯に行く事にした。
「一時は閉鎖するかもって言われてたけど…」
俺が子供の頃は、風呂がない家なんてたくさんあった。
近所の友達と一緒に銭湯行くなんて普通だった。



「来月、サーカスが来るらしいぜ
山ちんも見に行くんだろ?」
「たーくん、行くんだ?
見に行きたいけど、うちは店やってるからダメだよ」
「山ちんも一緒に行こうぜ
うちの父ちゃんがお前の父ちゃんに頼めば大丈夫だって!」
「父ちゃんがいいって言えばね…」
世の中、やっとテレビが普及したと言ってもサーカス団が来るなんて町の一大イベントだった。
銭湯にもポスターが貼られ、大人も子供もサーカスの話題で持ち切りだ。

しかし、俺はサーカスには行けなかった。
たーくんが父親の仕事の都合で突然引っ越してしまったからだ。
サーカスに行けなかった事よりショックだったな。
たーくん、今頃どうしてるかな?


そんな事を思い出しながら暖簾をくぐる。
中に入るとすぐに眼鏡が曇った。
「昔も今も眼鏡が曇るのは変わらないか…」



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