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千分の一話噺

第229章 俺とあいつ⑮・アキアカネ


夏の公園、蝉時雨。
あいつとの待ち合わせ。
日陰にいても汗が吹き出る。
「お待たせ~♪」
何でこいつはいつも涼しい顔で現れるんだ?
「蝉が凄いね」
俺達のいる木の上で一斉に鳴いている。
「蝉の寿命って知ってるか?」
「幼虫は土の中に七年いて成虫は一週間……って言うと思ったでしょ?」
悪戯な笑顔を俺に向けた。
「蝉の生態ってまだよく分かってないらしいけど、幼虫は種類によって一年くらいから五、六年、成虫は三週間から一ヶ月なんだって」
「ちっ、知ってたのか…」
こいつの知識はどこまで広いんだ?

「じゃあ、赤とんぼにはナツアカネとアキアカネがいるって知ってる?」
「ふっ、残念だったな…
ナツアカネは生まれた田んぼで一生を終えるが、アキアカネは夏場は涼しい高地に移動して秋に人里に戻ってくるんだよ」
「え~知ってたんだ!」
こいつの驚いた顔は久しぶりだ。
「前に調べた事があっただけだ…」
余りの暑さに近くの喫茶店に逃げ込んだ。


「じゃあ、お盆休み一緒にアキアカネ探しに行こう!」
アイスティーを飲みながらのこいつ。
「なっ!何で俺まで一緒なんだよ!」
アイスコーヒーを噴き出しそうになった俺。

「だって、いつも一人で行くと怒るじゃん」
「それはお前が何も言わずにいなくなるからだろうが!」
「だ、か、ら、一緒なら大丈夫でしょ」
また悪戯な笑顔が出た。
「だ、誰が行くかっ!」
「…もう二人分で旅館予約しちゃったからね」
そう言ってスマホで予約サイトの画面を見せ付けた。
「…なっ…」
なんて素早いんだ。
「君と旅行なんて、修学旅行以来だね、楽しみ♪」
今度は向日葵の様な満面の笑顔。

こいつの笑顔は最強だ。



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