第228章 ストラディバリウス
最後の夏休み、俺達はバイト終わりに安いラーメンを食いながら将来の夢を語っていた。
「俺はバイオリンで世界を取る!」
親友の隆一の目が燃えていた。
ガキの頃から幾つもコンクールに優勝していて、すでに有名な海外の音大へ入学が決まっている。
「お前なら才能あるし大丈夫だろ
もし世界一になったらラーメン腹一杯奢ってやるよ」
「お前なぁ世界一だぞ
もうちょっと良いもん奢れよ」
「ば~か、その頃には美味いもんなんか食い飽きてるだろ?
安いラーメンが良いんだよ」
「そりゃあ良い!
ストラディバリウス抱えて安いラーメン屋で演奏するか」
「ストラディバリウスって何億もするバイオリンだろ?
そんなもん買えるのかよ?」
「世界一だぜ、なんとかなるさ」
隆一は音楽の事以外はまったく適当で、そんな所が落ちこぼれの俺と馬が合った。
「一也はどうするんだ?」
「俺は……」
隆一の問いに返す答えがなくラーメンを啜った。
高校は何とか卒業出来そうだが、進学出来る成績はないし、する気もない。
「一也は職人に向いてるんじゃないか?
結構手先が器用だし、頑固な所もあるし…」
「頑固は関係ねぇだろ?」
「職人って言えば頑固じゃん」
隆一と笑いあった。
俺にも何か光りが見えた気がした。
ラーメン屋を出ると隆一は駅と反対に向かって歩き出した。
「駅はそっちじゃねぇぞ」
「たまにはタクシーで帰ろうぜ」
「まだ電車あるだろ?」
「世界一のバイオリニストは贅沢に慣れとかないとな」
「そんな事は世界一になってからにしろ!
だったら歩いて帰るぞ」
「え~何でよ?」
「世界一になるには体力も必要だろ?」
俺達は一駅先の地元へ笑いながら歩き出した。
end