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千分の一話噺

第225章 送り火


お盆の終わり、京都五山の送り火『大文字焼き』を見に行った。
大文字、妙法、舟形、左大文字、鳥居形。
次々と松明に火が放たれ形作られる。
先祖の霊を送り返す京都の夏の風物詩だ。


「ふう、暑いなぁ」
今年の日本列島はどこも猛暑。
夜になっても気温は30度を下がらない。
送り火を堪能してホテルに戻った。
帰り道、各家の玄関先には胡瓜や茄子で作られた精霊馬が見られる。

冷房が効いたホテルの部屋で寛いでいたらいつの間にか寝てしまった様だ。


「おい!早くしないと時間がないぞ」
誰かに起こされた。
「…誰?」
寝ぼけ眼で辺りを見ると、一面の草原にいた。
「…!、どこだここ!?」
「あんた、早く馬に乗らないと帰れんぞ」
「馬?」
俺は声のした方を振り向いた。
そこには胡瓜の精霊馬に跨がった老人がいた。
俺が呆然としていると、その老人を乗せた胡瓜の精霊馬は天に駆け上がった。
「な…、何なんだ…」
俺は理解を超えた光景に目を見開くだけだった。
「浩二か?何でお前がここにいる!?」
懐かしい声がした。
そこには五年前に亡くなったじいちゃんがいた。
「じ…じいちゃん?
お、俺にも訳が分からないんだ…」
「ここはこれからあの世に帰る魂のたまり場じゃ
お前が来るにはまだ早い
あそこに光る穴が見えるじゃろ
あそこに入れば帰れるから早く行け」
俺はじいちゃんに言われた光る穴に向かって歩き出した。
「じいちゃん…」
途中で振り返るとじいちゃんは精霊馬に跨がっていた。
「じいちゃん!葬式行けなくてゴメン!
今までありがとう!」
じいちゃんは笑顔で天に駆け上がって行った。


「じいちゃん!

…ここは?」
俺はホテルの部屋にいた。
「夢…だよな…」
五山の送り火が見せてくれた夢なんだろう。


end
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