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千分の一話噺

第215章 祈り…LAST


「ここは…?」
私は一人、雨の中を佇んでいた。
周りを見渡しても靄(もや)が掛かった様に何も見えない。
「ゆ…、祐司!祐司!」
叫んでも返事はなかった。




「…帰ってきてくれ」
俺は人形(ひとがた)を川に流し、ひたすらに祈った。
雨が降り出し、川岸の花菖蒲が雨粒に揺れる。
「…頼む…俺の…俺の元に戻ってこい!」
人形は溶けてなくなるとお祓いは成就すると云われる。
流れていく人形はゆっくりとその形を崩していった。




『…戻ってこい!』
祐司の声が聞こえた気がした。
「どこ?どこにいるの?」
その刹那、雨に一筋の光りが射した。
私はその光りに導かれる様に歩き出した。




人形が溶けてなくなるのを確認してから病院に戻った。
彼女はまだ目を覚ましていない。
俺はベッドの脇に力無く腰を落とした。
「…俺は…お前と…」
俺は彼女の手を握った。
その時、僅かだが握り返してきた。
すぐにナースコールで医者を呼んだ。




「…祐司…ごめんね」
「…良かった…戻ってきてくれて…」
二人は手を握り合って涙が止まらなかった。




彼女は順調に回復し、一ヶ月後に退院した。
「そういえば、大事な話しってなんだったの?」
「もちろん、これだよ」
俺はポケットに押し込んでいた指輪を出した。
「俺と結婚してくれ!」
彼女は目に涙を溜めて頷くだけだった。



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