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千分の一話噺

第213章 祈り


夜遅くに突然なった携帯電話。
『もしもし、こちら田奈川警察署です…』
警察からの連絡に俺は取るものも取らず病院へ急いだ。
彼女が事故にあった。
一命は取り留めたが予断は許さない。

病院に着いた時はまだ手術中。
俺はひたすら祈るしかなかった。


手術は成功したが、彼女の意識は一ヶ月経っても戻らなかった。
毎日、病院へ通い祈り続けた。
そんな時、ある知り合いから人形(ひとがた)流しの事を聞いた。
和紙製の人形に、心身のけがれや災いなどを移して川や海に流す行事で、奈良時代には宮廷でも行われていた由緒ある魔除けのお祓いだと云う。

俺は藁にもすがる思いで神社に向かった。
形代(かたしろ)と呼ばれる人形の和紙を貰い、病院へ行き彼女の身体に形代をあてた。
人形流しは本来、本人が行わなければならないお祓いで、他人の人形を触るとその災いが乗り移ると云われている。
だが、今の俺にはそんな事を言ってる余裕はない。
彼女が目覚めるなら俺がどうなろうと構わない。

「こんな非科学的な事にすがるしかないのかよ…」
正直、これで女が目覚めるとは思っていないが、それでも何かしないと自分が狂ってしまいそうだった。
彼女の身体から剥がした形代を持って神社に戻った。
神社の脇には、人形流し用に近くの川から引いてきた『浄めの川』がある。
「祓いたまえ、浄めたまえ…」
川辺には彼女が好きな花菖蒲が咲き乱れていた。



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