第212章 おばあちゃんの梅干し
今年も庭の梅にたくさんの実が実った。
「さあ、今年も梅干しを漬けようかね…」
おばあちゃんは腕まくりしてやる気満々だ。
おばあちゃんの漬けた梅干しは親戚に大好評で、この時期は梅の収穫の手伝いにまでやってくる。
「今年もたくさん梅干し作ってくださいね」
親戚のおばちゃん達が梅の実をおばあちゃんに渡した。
うちの家族も好きだけど正直、私はあの超すっぱい梅干しは苦手なのだ。
「ねぇおばあちゃん…
すっぱくない梅干しって出来ないの?」
幼い頃に聞いたことがあった。
「このすっぱいのが身体に良いんだよ
大きくなったら分かるさ」
たしかにクエン酸が身体に良い事は分かったけど、それでも苦手な事に変わりはなかった。
しかし、それは今年の職場の花見の時に変わった。
各自弁当持参での花見になんと憧れの先輩がやって来た。
「せ、先輩…なんで今年は参加なんです?」
「あぁ予定していた仕事がドタキャンになってな…」
先輩は急遽参加したため弁当を持って来ていなかった。
千載一遇のチャンス到来だ。
「あの…よかったら私のお弁当どうぞ!」
お弁当と言ってもおにぎりとちょっとしたオカズなのだが、料理には自信があった。
「おっ、悪りぃな」
先輩はそういっておにぎりを頬張った。
「美味い!特にこの梅干しっ!」
「えっ?梅干し?」
私が首を傾げると、先輩はもう亡くっている田舎のおばあちゃんが漬けた梅干しを思い出したそうだ。
おばあちゃんの梅干しがきっかけで私達は…。
時は流れ、今では私がおばあちゃんの後を継いで梅干しを漬けている。
end