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千分の一話噺

第207章 魔法の鉛筆


コロコロコロ…

静まり返る教室に、微かだが鉛筆の転がる音。

パシッ!

はっきりと分かる叩かれた音。
「田口君、テストは真面目に考えなさい」
「だからって叩かなくても…」
周りからクスクスとした笑い声が起こる。

今はテストの真っ最中、俺は六角形した緑色の鉛筆に希望を乗せて答えを選んでいた。

キーンコーン♪カーンコーン♪

終わりのチャイムが鳴る。
やっとテストが終わった。

「田口、テスト中に笑わすんじゃねぇよ」
「うるせー、俺のせいじゃねぇだろ」
「ってか、今時、鉛筆なんか使ってるだけで笑えるぜ」
「この鉛筆はなぁ、幸運の鉛筆なんだよ」
そう、このどこにでもある緑色の鉛筆は俺に幸運を運んでくれた。

俺には憧れの人がいた。
隣に住んでいた五歳年上の美沙子姉さん。
小さい頃から遊んでくれて、小学生になると勉強も教えてくれた。
俺が高校受験の時、その美沙子姉さんから貰った鉛筆がこれだ。
「優太くんが高校受かるように、この鉛筆に魔法を掛けてあげる」
そう言ってこの鉛筆を唇に当てた。

その魔法のおかげかはともかく、俺はこの鉛筆を使って高校に受かった。
だから、普段は使わないがテストの時は必ずこの鉛筆を使う。

美沙子姉さんは就職して一人暮らしを始め、離れ離れになってしまったが、この鉛筆を持っていれば必ず…。



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