第202章 俺とあいつ⑬・ウィンク
最近の五月は晴れると初夏と言うより、もう夏本番みたいな暑さだ。
「あっついなぁ」
俺は駅に向かって自転車を漕いでいる。
「ったく…何であいつはいつもこうなんだ?」
俺は汗だくになりながら、昔の事を思い出した。
(そういや、あいつが留学から帰ってきた時も突然で、こうして自転車で迎えに来たっけな)
「今日と言う今日は許さねぇぞ
絶対文句言ってやる!」
俺の怒りが天に通じたのか、にわかに曇りだした。
あいつが乗ってくる電車はまだ着いてない。
俺は缶コーヒーを買って、一息付いた。
「…何だか雲行き怪しくなってきたなぁ」
そのうちにぽつぽつと雨が落ちはじめた。
「なんだよ、本当に降ってきやがったか」
まだ小降りだが俺は駅に駆け込んだ。
ほぼ同時に改札からあいつが出て来た。
「待ったぁ~?」
あいつは脳天気に手を振って近づいてくる。
俺は沸々と怒りが込み上げてきた。
「待ったぁ?じゃねぇ!
なんで俺が傘持って迎えに来なきゃいけねぇんだ!」
「だって雨降ってきたじゃん
今日は傘持ってなかったんだもん
初夏って言っても濡れたら風邪引いちゃうよ」
「だったら、そこのコンビニでビニール傘でも買えばいいだろ!」
俺は駅の目の前にあるコンビニを指差した。
「え~それじゃあ君と相合い傘出来ないじゃん」
そう言ってウィンクするこいつにこれ以上文句が言えなかった。
(くっそ~卑怯だぞ…)
俺は拳を握り締めるだけだった。
end