第192章 憂い
「卒業か…」
小中高と卒業、進学を繰り返し、この春、大学を卒業して社会人になる。しかし、俺は一体何を卒業して来たのだろうか?
小中は地元の公立校だから何も出来なくても卒業出来る。高校も大学も所謂二流三流の学校で無難に卒業出来た。だからと言って特別秀でた能力はない。
特にやりたい事はないが、就活して会社も決まっている。中小企業ではあるが意外と歴史のある会社らしい。
その会社は隣の県なので一人暮らしを始める事になった。これから引っ越しの準備だ。
「これで家からも卒業ね」
母親に言われて「また卒業か」と思った。今まで母親がやっていた家事も自分でやらなくてはいけない。何も出来ないのに『卒業』だけして次に進む。そんな事の繰り返しだ。
彼女が出来て結婚すれば、独身から卒業して新生活になる。
子供が出来れば、今度は子供の卒業進学だ。子供が自立すれば子育てを卒業になるんだろうか。
定年を迎えて会社を卒業。
そして最後は人生の卒業になる。
果たしてその時に何を卒業出来たのか?答えは出るのだろうか?その後の新生活は…。
「俺は何を卒業したんだろう?」
誰も答えてはくれないし、誰かの答えはその人の答えで自分の答えにはならない。人は答えを探すために新しい一歩を踏み出すしかないのかも知れない。
end