第187章 雛
昔から『雛飾りを早く片付けないと嫁に行き遅れる』と…。
そんなのは、ただの言い伝え。
子供の頃は雛人形が好きで親に頼んで三月いっぱいは出したままだった。
もちろん母親に『行き遅れるわよ』と言われたけど、そんなのはお構いなし。
「私はお嫁さんには行かないから…」
そういうと父親は喜んでいた。
あれから二十年…。
三十路になっても縁がない。
彼氏がいなかったわけじゃないし、結婚したくないわけでもない。
ただ『結婚』が頭を過ぎると何故か彼氏から別れを告げられる。
それでも最近は三十路でも、未婚だからと何か言われる事は少ない。
私も気にしてはいなかった。
今、彼氏と良い関係が続いている。
このまま大事なく上手く行くと良いなって思っていた。
しかし…。
「…ゴメン、別れよう」
それはいつも突然だ。
昨日まで何も問題なく付き合っていたのに…。
「えっ!?ちょっと待って!
なんで!?私何かした!?訳を教えてっ!」
彼をなんとか引き止めて訳を聞き出した。
「…夢に…夢に出て来きたんだ
別れろって…」
「夢?…誰が?」
「…人形
今も君の後ろに…」
彼はそう言い残し、私の手を振り払い足早に去って行った。
『貴女は渡さない…』
end