第184章 雪国…
『国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。』
この有名な出だしの小説の舞台は越後湯沢がモデルと言われる。私は気まぐれに文庫本を片手に電車に乗り込んだ。
小説では作家の主人公が汽車で向かった先は、今では新幹線で二時間も掛からない内に着く。主人公は汽車の中で病気の男と連れ添う女に出会うのだが、私はせっかく文庫本を持って乗車したのに大して読む時間もなかった。
雪国は、近年の温暖化の影響で暖冬なため雪が少ないと言われるが、今年は稀にみる大寒波で結構雪深い。正に雪国であった。
主人公は妻子がいるにも拘わらず、女に逢いに東京からここに来ている。しかもその女の家には汽車で会った病人(女の婚約者らしい)がいて、更に連れ添いの女(病人の恋人らしい)まで住んでいる。現代の週刊誌なら泣いて喜ぶくらいのどろどろな人間模様だが、そこを美しい情景描写や情緒的な表現で文学にしている。さすが文豪と呼ばれるだけはある。
主人公が逢いに行った女は芸者だ。越後湯沢と言えば今はスキー場と温泉街であるが、当時は鄙(ひな)びた小さな温泉町だったのだろう。今や見る影もなく開発されてしまったのは残念だ。
芸者の病気の婚約者は、主人公が最後に訪問した時に死んでしまう。更には火事が起こり婚約者を愛していた女は瀕死で焼け出され、芸者はその光景をみて錯乱してしまう。主人公は空を見上げ、そこで物語は終わってしまうのだ。
時代背景もあるのだろうが、かなり難解な物語である。ただここは当時と変わらない粉雪が舞っていた…。
end