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千分の一話噺

第173章 名家


暖炉に火が入りゆっくりと部屋が暖まっていく。

大正時代に建てられた旧い洋館…。
戦前は華族と呼ばれた名門の家系…。

しかし、そんなもん現代ではなんの意味も成さない。
「…寒いわね」
いつも和服の母の足元は厚手の足袋に変わった。

文化財並の洋館は、現代の便利な設備を備える事も許されず、冬は暖炉、夏は扇風機しか使えない。

華族制度が廃止された時にいろいろな特権は無効となり、名門であるが故の誇りや見栄が邪魔して、家柄だけの貧乏な元華族も少なくないという。

うちはまだ良い方だ。
洋館がいずれ重要文化財となるので、保存の意味からいろいろと支援されている。
元華族という家柄は社交界では未だに顔が広い。
スポンサーには事欠かないのだ。

しかし、私個人は貧乏性だ。
社交界では名家のお嬢様でいなきゃいけないが、プライベートでは名家のお嬢様は封印している。


「麗佳ってけっこう謎だよね」
親友の俊子が呟く。
「何がよ?」
「だって、未だに住所も教えてくれないなんて普通じゃないよ」
俊子とは高校時代からで携帯は教えあったけど、家は超貧乏だからと教えてない。
「ほら、今はスマホでいつでも繋がるんだから良いじゃない」
そう言ってずっと誤魔化してきた。
「それに、いっつも小銭ばっかり持ってない?
百円玉で千円以上の買い物してるのあんたくらいよ」
「一円を笑う者は一円に泣くのよ
貧乏なんだからしょうがないじゃん」
そろそろ誤魔化すのも限界かも知れない。
俊子には本当の事、話しても大丈夫かな?

「ねぇ俊子、実はね…」



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