第156章 鬼の涙
しとしとと小雨降る中、麗子は赤い実を見付けた。
「あれ?ほおずきって夏の物じゃないの?」
彼女は真っ赤に熟した鬼灯に近づいた。
綺麗と言うよりも、妖しく誘うような朱い実に彼女は手を差し延べた。
「それに触らないで…」
突然の一言に彼女は手を止めた。
「えっ?誰?」
声の方に振り返ると、雨に傘も差さず佇む青年がいた。
「…貴方は?」
麗子が尋ねると青年は俯き気味だった顔を上げた。
黒髪に蒼い瞳、誰しも見惚れるだろう美青年だ。
「僕は鬼灯の守人…」
雨粒が彼の黒髪から滴り落ちた。
「ほおずきの守人?」
麗子は少し後退りながらも興味の方が強かった。
「…ほおずきが何故、『鬼の灯』と書くか知ってる?」
麗子は首を横に振った。
「鬼の目の様に妖しく光ってる見えるから魔除けの意味もあるんだ…でもね」
青年は目を閉じ、再び開くと蒼い瞳は鬼灯の様に朱く輝いていた。
「えっ!?」
その瞳に麗子は身体の自由を奪われた。
「鬼灯は鬼の涙なんだよ
だから、そっとしておいて…」
青年は麗子に背を向けて雨に煙る彼方に消えた。
麗子は秋雨に濡れた鬼灯が鬼の涙に見えた。
end