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千分の一話噺

第153章  感謝


「いらっしゃい!いらっしゃい!
秋の味覚、活きの良い秋刀魚が入ったよ!」

魚屋の店先で店主が大声で客にアピールしていた。
その言葉に足を止めて立ち寄る客も少なくない。
しかし、それを物陰から伺う黒い影があった。
(ふっ、今日の獲物は決まったな)
黒い影は一旦その場から身を隠した。

旬の秋刀魚のおかげで店は客で賑わい、店主や女将も客の対応に大忙しで店の隅までは目が届かなかった。
その隙を身を隠していた黒い影は見逃さなかった。
(今がチャンス!)
物陰から飛び出したのは、この辺りを縄張りにしている三毛猫だ。
隅にあった秋刀魚をくわえて逃げようとした時に女将さんと目が合った。
「あっ!この泥棒猫!」
女将さんが声を荒げた。
その言葉に三毛猫は秋刀魚をくわたまま一目散に走り出した。
「あんた!秋刀魚がっ!」
女将さんは店主に叫んだ。
しかし、店主は秋刀魚をくわえて逃げ去る三毛猫を苦笑いで見送った。
「くれてやりな、今日は『招き猫の日』だっていうじゃねぇか
いつも客を呼んでくれてるんだ、たまにはお返ししてやらねぇと愛想尽かされちまう」
店主は店の奥に座っている招き猫をちらりと見遣った。



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