第146章 世捨て人
「竹林七賢じゃあるまいし、いつまでこんな所に隠れ住んでるつもりだ?」
「こんな所で悪かったな…
俺はここが気に入ってるんだよ
それより何しに来たんだ?」
都会から遠く離れた田舎の竹林に囲まれた小さな庵。そこで俺は世捨て人の様な生活をしていた。
そんな俺を気遣って尋ねて来る親友Sにお茶を差し出した。
「お前がネットで何かしてるって聞いたんでね
まさか危ない事でもしてないだろうな?」
どうやらまた心配をかけているようだ。
「生活するには金がいる…
もちろん危ない事もしてないし、俺だと分からない様にやってるさ」
Sは出されたお茶を飲みながらパソコンを覗き込んだ。
「その才能をちゃんと使えって言ってるんだけどな
天才プログラマー…、天才ハッカー…、どちらにしろお前に敵う奴などいない
その気になれば億単位で稼げるのに…」
Sは大袈裟な振りを付けて嘆いた。
「…そんなに金儲けしてどうする?贅沢して幸せなのか?
俺は自由気ままな人生の方が幸せだな
ネットを見てると、今の日本人は心が貧しいとしか思えない
流行っているから…、有名人が良いと言ってるから…、情報に流されているだけで主体性がまるでない」
俺はあるプログラムをSに見せた。
「これは何のプログラムだ?」
Sは怪訝な表情をしている。
「全てのネットワークを破壊するウィルス…
パスワードを打ち込んで、『GO!』のボタンをポチッとすれば一夜にしてネットワークは消滅する」
俺が笑みを浮かべるとSは差して慌てる様子もない。
「お前なら可能だろうけど、そんな気ないだろ?」
「ちぇっ、少しは驚いた顔が見たかったんだけどな」
俺はSのお茶を入れ直した。
「まぁ何やかんやで平和だからな…」
Sは窓を開けて竹林を眺める。
俺はこのプログラムを使う日が来ない事を祈ってパソコンを閉じた。
end