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千分の一話噺

第144章 LOTUS


『離れゆく愛』か…。
俺は蓮の花に彼女の後ろ姿を重ねて見ていた。
俺があの時、止める事が出来たなら、違う未来があったのだろうか…。




梅雨も終わろうかと言う雨の中、傘も差さずに立ち尽くす女性に出会った。
びしょ濡れなのもお構いなしにただそこに立っていた。
道行く人達は訝しげな表情でその女性を避けていく。
それが普通なんだろうが、俺は何かを感じ取り立ち止まっていた。
俺に気付いた彼女は顔を上げ、にこりと微笑んだ。
「君は?」
「…ロータス…」
そう言い残すと彼女は雨に煙る彼方へ消えて行った。


あれから数日後、俺は彼女と同じ場所で再会した。
梅雨明けの青空の下、彼女は日傘を差して佇んでいた。
「…ロータス?」
俺が声を掛けると彼女はあの時と同じ様ににこりと微笑んだ。
「…覚えていて…くれたんだ」
「ああ…、まだ何日も経ってないから…」
「そうね…私には…もう時間がないけど…」
彼女はくるりと背を向けて歩き出した。
俺は声を掛けようとしたが、その時の彼女の表情に何も言い出せなかった。

彼女が言った時間がないとは何の意味なんだろうか?あの凛とした表情には何かしらの覚悟が伺えた。
しかしその後、彼女に会うことは二度となかった。
もしあの時、俺が声を掛けていれば何かが変わったのかも知れない。
あるいは変わらなかったのかも…。



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