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千分の一話噺

第143章 スイカの恩返し


今年の暑中見舞いは、何故かスイカばかりだった。

「あっちもスイカ、こっちもスイカ、そっちもスイカ!

スイカ祭りかっ!!」

いくら俺がスイカ好きだと言っても多過ぎる。

「ちは~宅急便です」
またスイカが届いた。しかも10個も…。
「これは何の嫌がらせだ!
俺にスイカ売りでもやれってか!?」
そんなぼやきも関係なく、宅急便の兄ちゃんは笑顔でスイカを置いていった。その笑顔が悪魔に見えた。
その後も名だたる宅急便が続々とやって来て、スイカをゴロゴロと置いていく。数えるのも嫌になるくらい俺の部屋はスイカで溢れていた。

がしかし、冷静に考えてみれば俺に暑中見舞いを贈ってくれる様な人に心当たりがない。送り先は俺だが贈り主の名前を見ても知らない名前ばかりだ。誰かの悪戯や嫌がらせにしては数が多過ぎる。俺は背筋が寒くなった。
「…スイカの祟りか?」
ただ祟られる様な事もした覚えはないが…。

1Kのアパートの部屋に数十個のスイカが転がっていると、正に足の踏み場もない。好きだと言ってもこんなに食べられる訳もない。とにかく知り合いに片っ端から『暑中見舞い』と言って配って行った。
「ふぅ~後は毎日食べれば良いか…」
それでもまだ10個も残ってる。とりあえず1個食べる事にした。真っ赤な切り口は実が詰まっていて瑞瑞しく美味しそうだ。
「美味い!こんな美味いスイカ久しぶりだ!」
あまりの美味さに丸々1個をすぐに完食していた。

その夜、スイカ配りの疲れもありいつの間にか寝てしまった様だ。
「いつも美味しそうに食べてもらってありがとうございます
私達スイカの精からのお礼です」
巨大スイカに押し潰される夢を見て跳び起きた。

俺の横にはスイカがゴロリと転がっていた。



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