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千分の一話噺

第137章 時の天皇


時は古、天智十年。

「やっと出来たのか?」
「一応、形にはなりましたが、試してみない事には何とも…」
俺の依頼主はせっかちなのだろうか?『漏刻』と言う設計図を見せてもらってからまだ一ヶ月しか経っていない。しかも今まで見たこともない水のカラクリだ。部品一つ作るのも一苦労してきた。
「早く水を入れてみろ」
「はいはい、仰せの通りに…
おい、水を張れ」
俺は弟子に命じて漏刻に水を入れた。水は順調に漏れ出し少しずつ水面が下がっていく。
「おぉ!良いじゃないか!
これで皆に正確な時刻を知らせる事が出来るぞ!」
ちゃんと動くかどうか心配だったが、どうやら依頼主を満足させたようだ。


漏刻とは水を少しずつ漏らす事で時刻を知る『水時計』だ。『日時計』は晴れなければ用を成さないが、『水時計』は天気に左右されず昼夜も問わない。

この漏刻を都に設置し、民に時を知らせたのは天智天皇。そして漏刻で初めて民に時を知らせた日が、旧暦4月25日(現在の6月10日)と云われ『時の記念日』になった。
6月は水無月、「水が無い」と書くが『無(な)』は現代では『の』を意味し『水の月』となる。水の月に水時計とは何かの縁なのかも知れない。


漏刻で民に時を知らせた天智天皇は上機嫌だった。
「これで私は正に『時の天皇』だな」
と、言ったかは定かではない。



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