• テキストサイズ

千分の一話噺

第134章  約束


約束の時間までまだ間があった。

俺は少し遠回りとなるが川沿いの道を選んだ。貴女と歩いた頃は桜が綺麗に咲いていた。今は新緑の葉桜に木漏れ日と川を渡るそよ風が気持ち良い。ふと川を覗き込むと水面に反射した光りに目を奪われる。眩い光りの中に貴女の影が浮かんでは消えた。


約束の時間、約束の場所…。
あれからどれだけの月日が流れただろう。


今日は何時間待とうか?
何時間待ったとしても貴女が現れないのは分かっている。それでも俺は時間があれば、ここに来て待ち続ける。奇跡が起こらないと誰が言える。どこかで生きていれば、いつか元気になって来てくれるはずだ。約束を違えた事のない貴女なのだから…。

何があったのか?なんて俺には分からない。ただ、今ここに貴女は居ない。約束の時間はとっくに過ぎた。しかし今日も奇跡は起きないようだ。現実を受け入れろと言われても諦めきれない事もある。頭では分かっていても心がそれを許さない。

夜の帳が降り、月が顔を出しはじめた。今日はこれで帰ろう。
今宵の満月は鏡の様に貴女の面影を映す。昼間のそよ風とは違う、心に吹くすき間風。貴女との全てが夢幻だったとでも言うのだろうか?

誰も答えてはくれない。



end
/ 1576ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp