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千分の一話噺

第124章 チューリップの咲く浜


一面にチューリップ畑が広がる小高い丘。そこに僕らは暮らしている。
春になり色とりどりのチューリップが咲き揃うと、その先に広がる海も霞んで見える。

「そろそろ切り花にしないとな」
「そうね、来年も咲いてもらわないといけないもんね」

チューリップの球根は、手入れ次第で何回も咲かせる事が出来る。その為に咲いてる花は切り落とす。切り落とした花は小さな売店で販売していた。

その店に毎年やって来るお客様がいる。そのお客様はこの丘の下にある浜で暮らしていた。

「今年も大漁だぜ」

今年も網いっぱいの蛤を持ってやって来た。そう下の浜で潮干狩りをして捕れた蛤を毎年持って来てくれるのだ。

「今年もこれで頼む」
「こんなにたくさん良いのか?」
「大丈夫だ、海からの贈り物だからな」
「じゃあ、大地からのお返しだ」

そのお客様は網いっぱいの蛤とチューリップの切り花を交換して帰っていく。

「ねぇあのお客様、あんなにたくさんのチューリップをどうするのかしら?」

去年、結婚したばかりの妻は彼の事を知らない。僕も直接聞いた事がないので、噂話しか知らない。

彼は持ち帰ったチューリップを蛤を捕った砂浜に刺しているそうだ。
その海で亡くなった最愛の人の為に…。



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