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千分の一話噺

第123章 昔の話し


「お嬢、どちらへ?」
「散歩してるだけですよ」

とある小さな田舎町の小川の辺を見目麗しい女性とどこから見ても身分の違う男性が親しげに立ち話をしている。

「散歩?お嬢が?ほんとに?
また良からぬ悪戯でも考えてるんじゃないですよね」
「私は悪戯など致しません!」

お嬢と呼ばれた女性は、この小さな町を代々治めてきた領主家のお嬢様。大正になったとは言え、田舎の小さな町では西洋の服に春日傘を差すなど余程裕福な身分でなければ出来ない。しかし、そんな身分の差など関係なく、外を歩けばみんなに『お嬢』と声を掛けられ親しまれていた。

「一緒に遊んでた頃のお嬢を知ってるだけに、俄かに信じがたいんですけどね」
「そ、それは子供の頃の事、今は…
それよりお前こそ何でここにいるのです」

今でこそ淑やかなお嬢様の振る舞いが出来ているが、子供の頃は町中の子供達と一緒に泥だらけになりながら駆けずり回るお転婆娘であった。

「天気も良いし、何となくここに来ればお嬢に会えそうな気がして…
ほら、ここでおたまじゃくしをいっぱい取って帰って、領主様に叱られたじゃないですか」
「もう、また昔の話しを!」

穏やかに微笑む二人の姿が、麗らかな春の日差しでキラキラと輝いく川面に映されていた。



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