第110章 ヒーローは何処に?
久しぶりの実家。
田舎だ田舎だと思っていたが、いつの間にか駅ビルに高層マンションか…。
(この町も変わったな)
しかし、俺の実家は町外れの山沿いなので相変わらず寂しいかぎりだ。
15で家を飛び出し、ヒーロー養成所で修行し、ヒーローになって世界を飛び回り、四半世紀が過ぎた。
だがヒーローにも体力の限界がある。
限界を向かえると人知れず引退し、若い奴にバトンタッチする。
コスチュームが同じなら中身は関係ない、ヒーローはずっとヒーローじゃなきゃいけない。
俺が憧れていたヒーローもこんな感じで引退したんだろうか?
ヒーローになれば一躍有名になって何不自由ない生活が出来ると思っていた。
しかし現実はそうはいかない。
『ヒーロー鉄則五箇条』
一、悪を憎んで、人を憎まず。
二、正体は親兄弟にも明かさない。
三、普段は目立たず質素に暮らす。
四、ヒーロー活動は迅速かつ丁寧に。
五、ばれたら即引退。
ヒーロー協会の鉄則は厳格で監視の目も厳しく、クビになったヒーローはたくさんいる。
まともに引退しても僅かな退職金しか貰えない。
元々ヒーローなんて何処からも報酬が出るわけじゃなく、協会がキャラクターグッズで稼いでいるだけだ。
協会だって、新兵器開発や若手育成で金なんて残る訳もない。
ヒーローしかしてない俺がこの歳で就職って言うのも無理な話しだから、実家の農業を継ぐことにした。
「ただいま!」
実家の玄関を開ける。
「お帰り、もうすぐご飯出来るから…」
お袋が出迎えてくれた。
25年ぶりなのに、昔と変わらない。
親父も居間でテレビを見ながらビールを飲んでいる。
「お前も飲むか?」
一緒にビールを飲んでいるとお袋が鍋を持ってきた。
「今日は寒いから鍋にしたわ」
カセットコンロに熱々の鍋が乗る。
久しぶりに食べる家の鍋の味はヒーローでボロボロになった身体に染み渡った。
end