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千分の一話噺

第101章 誘拐


遂に除夜の鐘が鳴り出した。
(くそっ!なんでこんな事に!?)
俺は次の目的地に向けて走り出した。



それは今から三時間ほど前の事だ。



「S小学校の本田先生ですね?」
目の前に警察手帳を突き付けられた。
「えっ警察?…な、何か?」
俺の顔は多分引き攣っていたと思う。
「捜査協力をお願いしたいので署までご同行を…」
俺の返事を待たず、両脇を抱えられ拉致されるように地元の警察署に連れていかれた。

そこで聞かされたのが教え子の誘拐だった。
そして身代金の受け渡しに自分が指名されていた。
「なんで俺なんです?」
「緊急事態の為、無理は承知でお願いします」
詳細もよく聞かされず、身代金の入ったバッグを持たされ、公衆電話の前に立たされた。

公衆電話が鳴り、言われた通り電話に出た。
『お前が本田か?
もうすぐ除夜の鐘が鳴り出すな
さて、走ってもらおうか』
犯人は次の目的地(公衆電話)と時間を指定してきた。
走らないととてもじゃないが間に合わない。

俺は教え子の為に走った。
こんな事ならもっと鍛えておくんだった。

着いた先でも次の目的地と時間を指定された。
『走れ走れ!
除夜の鐘が鳴り終わるまでに着かなければ…
分かっているよな』
俺は電話を切るとすぐに走り出した。

息も絶え絶えに目的地に着くとたくさんのパトカーが集まっていた。
「ご協力ありがとうございました
誘拐されていた貴方の教え子は無事保護されましたよ」
担当の刑事から説明された。
ここに先回りした刑事が人質(教え子)を連れた犯人を発見し逮捕したのだ。
「でも、どうしてここが?」
「このバッグには発信機とマイクが付いてるんですよ」

俺はその場にヘタリ込んだ。
「…良かったぁ」
「明けましておめでとうございます」
刑事から新年が明けた事を教えられた。


百八つ目の鐘の音が響いてきた。



後日、犯人の動機が明らかになった。
「経営していた会社が立ち行かなくなった
金が必要だったんだ
走らせて疲れたところで金を奪うつもりだった
それに、師走だから先生を走らせてみたかった」…だと。

まぁおかげで俺の行動は美談として語られているけど…。



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