第96章 親父の笑顔
俺の親父が再婚することになった。
お袋が亡くなって二十年、男手一つで俺を育てくれた。
この数年、親父の様子がおかしかったから何かあるとは思ったが、再婚とは親父にしては思い切ったことを…。
「慶治…、再婚したいんだが良いか?」
「はぁ!?再婚?
…あぁ…良いんじゃねぇ
俺も、もう二十五だし、別に何も言わねぇよ」
確かに突然の再婚宣言でびっくりはしたが、親父はお袋を忘れた訳じゃなかった。
「何も…聞かないのか?」
「親父の惚気話なんか聞けるかよ
まぁ…話したいなら勝手に話せば…」
久しぶりに呑もうなんて誘いがあったから変だとは思ったんだ。
「彼女はな…母さんとはまるっきり違うんだが、何か似てるんだ
何が?かは分からないんだが、会ったときに雷に打たれたみたいに全身が痺れた…」
「雷にねぇ…」
「あぁそうだ、母さんに会ったときと同じなんだ」
そう言って笑った親父の顔は、お袋と一緒に写ってる写真と同じだった。
二十年前、あの大震災で起きた火事…。
お袋…、母さんは逃げ遅れた俺を命を懸けて救ってくれた。
その俺を親父が、それこそ命懸けで一人前に育ててくれたんだ。
感謝こそすれ、文句なんか言うわけないだろ。
「親父…、母さんも喜んでると思うぜ」
親父とグラスを合わせた。
end