第93章 蘊蓄
私の父は蘊蓄(うんちく)が好き。
父には孫になる息子が三歳になったので、七五三を祝う為にやって来た。
「いいか、七五三を祝う由来は色々あるが、昔は七歳までに亡くなる子供が多かったので、生きてて良かったとお祝いしたのが始まりと云われるんだ
その後に、三歳は「髪置(かみおき)」、五歳は「袴着(はかまぎ)」、七歳は「帯解(おびとき)」と、七五三の祝いになった
「髪置」は男女ともに行われた儀式で、この日を境に髪を伸ばし始め、男児は五歳の「袴着」で袴を着付け始め、女児は七歳の「帯解」で帯を締める着物にかえるんだ
最近は三歳は女児だけだったりするが、正式には男児もしなきゃいかん」
うちに来ていきなり七五三の長い蘊蓄を語った。
私と旦那は、また始まったと呆れ顔だ。
「お父さん、蘊蓄はもう良いから神社にお参りに行きましょ」
私が切りの良いところで父の蘊蓄を遮った。
黙ってたらいつまで続くか分かったもんじゃない。
父はまだ喋り足りないような顔をしていたが、息子がタイミング良く欠伸をしたので、渋々出掛ける事になった。
神社の境内は紅葉が始まり、色付いた葉が綺麗だ。
お参りを済ませ、紅葉の境内で記念撮影をしようと旦那がカメラを構えた。
息子を真ん中に私と父と三人並んで写真を撮る。
デジカメはすぐに画像が見れるから便利なのだが、その画像には舞い散る紅葉が写り込み、父の顔が隠れていた。
それを見た父は旦那に写真の撮り方の蘊蓄を語り始めた。
私は素知らぬ顔で紅葉を眺めるのだった。
end