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千分の一話噺

第91章 お笑いは焼肉の匂い


気持ちの良い秋晴れの日。
今日は学園祭。

うちの学校は毎年、学生によるお笑いコンテストが開催される。
俺は見るだけだが、仲間がコンビで出場することになっている。
優勝すれば焼肉屋の食事券五人分、これは応援するしかない。
学校に着くとすぐに仲間を探した。
「おっ、いたいた
どうだ?勝てそうか?」
俺が声を掛けると、そいつは今にも泣きそうな顔で振り返った。
「どないしよう…」
何があったのか聞いてみたら、今日漫才をやるはずの仲間から『熱出して来れない』ってメールが来たと…。
「なんだよ、それじゃあ出れないのかなぁ…」
俺も焼肉がなくなって肩を落とした。
その肩をガシッと掴まれ、前後に揺さ振られた。
「頼む!代わりに出たってくれ!
わいら三年は今年が最後やんか!」
「馬鹿言うな!俺が漫才なんか出来るか!」
俺は間髪入れず拒否した。
「頼む!この通りや!」
人の目もはばからず、土下座までして頼まれ、無理矢理コンビを組まされた。

出番まで一時間程度。
「俺は何したら良いんだよ」
漫才なんかやったことのない俺に「秘策があるんや」と言い出した。
「これや、これ!物ボケで行くで!」
机の上にいろいろな道具が置かれていた。
物ボケとは、物を使ってボケるお笑いだ。
「お前が物を選んで、わいがボケる!これならネタ合わせも要らんやろ」
こんな安易なことで大丈夫かと心配したが、俺達の出番となった。


俺が選んで相方がボケる。
順調に笑いも取れていたが、爆笑とまでいかなかった。
行き詰まり感を感じた相方が、俺にバナナを差し出した。
俺が咄嗟に出したボケは…。

「そ、そんなバナナっ!」

一瞬の静寂…。
しまったと思う間もなく、「なんで昭和のボケやねん!」と相方のツッコミが入いった。
これで会場に爆笑が巻き起こり、その後も相方のボケで最後まで爆笑が続いた。


結果は、俺達が優勝し焼肉屋の食事券をゲットした。
「このままプロにならへんか?」
「いい加減にしろ!」



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