第88章 コスモス
「よぉ、コスモスの花言葉って知ってるか?」
アイツが急にそんな事を聞いてきた。
「花言葉だぁ?
どうした?熱でもあんのか?」
「あん?別に熱なんかねぇよ
ただ…気になっただけだ」
なぜか歯切れの悪い答えが返ってきた。
「そんなもん知ってどうすんだよ?」
「てめぇにゃ関係ねぇよ」
ヤツはそっぽを向いて答えた。
「ははぁん、…女だな
花でも送る気か?似合わねぇな」
「うっせぃ!そんなんじゃねぇ!」
妙に強く否定するコイツに何か事情があるように思えた。
「…はぁ…何があったんだよ」
俺は溜め息と共に訳を聞いた。
「…」
「言えよ!水臭せぇな!」
俺が胸倉を掴み上げるとヤツはぽつりぽつりと話しだした。
「…俺の…妹がよ…」
コイツには歳の離れた妹がいた。
生まれながらに身体が弱く、先天性何とかって何万人に一人の難病らしい。
その妹に大好きなコスモスを見舞いの時に持って行きたいと…それで花言葉なんて似合わねぇ事を言い出した。
あん時は正直困った。
俺が花言葉なんて知る訳ねぇし、かといってほっとく訳にもいかねぇし…。
今みたいにスマホで検索出来りゃあ、すぐだったのにな。
それでも最後の見舞いには間に合ったから良かった。
あん時のアイツの涙は忘れない。
end