第86章 定番メニュー
「ふぅ、今日も暑いっすね
昼飯なんにします?」
俺は先輩の方に振り向いた。
「なんか冷たくてさっぱりしたもんにしようぜ」
先輩はタオルで汗を拭いながら、愛用の扇子をパタパタと扇いでいた。
「冷たくてさっぱりって、また麺類になりますよ…
昨日も一昨日も麺類だったじゃないっすかぁ」
俺が呆れるように言うと、先輩が諦めたように答えた。
「しょうがねぇだろ、こんなに暑くちゃ食欲湧かねぇよ…」
確かに九月だと言うのに、猛烈な残暑で食欲も無くなる。
しかし、九月と言えば味覚の秋の始まり、いくら昼飯とはいえ麺類ばかりじゃ勿体ない。
「そうだ!先輩、新しい店が出来たの知ってますか?
かなり美味いらしいっすよ」
俺も開店したのは知っていたが、まだ行ったことがない。
「知らんけど…美味いなら、そこ行こうか」
先輩は店にはあまり興味がなさそうだ。
会社から歩いて15分程度、ちょっと遠いけど、やっぱり美味い料理が食べたい。
「まだかよ…、これで美味くなかったら、お前の驕りだからな」
先輩がぼやくのは想定内だ。
「大丈夫ですって!」
前もって食べた同僚に味は確認済みだ。
店に着いて先輩は顔を歪めた。
「カレー屋?このクソ暑いのにカレーかよっ!」
「まぁまぁ、もう時間もないんだから…」
先輩を店に押し込んだ。
数分後。
「美味い!」
先輩は大喜びだ。
それもそのはず、この店の目玉メニューは…。
『冷やしカレーうどん』
冷たいのにスパイシーなカレーが食欲をそそる。
新たな夏の定番メニューになる気がする。
end