• テキストサイズ

千分の一話噺

第79章 約束


大空を羽ばたく夢を見た。
遥か上空から見下ろす町並みは、朝靄(あさもや)に霞んでいた。
一回りしてから海と空の境目を目指して飛んだ。


現実は今、断崖絶壁の先端。
ここに来るのは何回目だろう。

目が眩みそうな高さ、見下ろせば岩場に打ち付ける波。
確実に死ねる場所だ。
大空に飛び立つ様に後一歩踏み出せば全てが終わる。
この忌ま忌ましい現実からおさらば出来る。


しかし何度ここに来ても、その一歩が踏み出せない。


死が怖いとは思っていない。
むしろ生き続けている方が辛い。
だけど、俺には約束がある。


「…生きて…私の…分まで…」

死の間際に残した彼女の言葉。
生きる為にやれる事はやった。
それでも病魔は彼女を帰らぬ人にした。


この呪文がなければ、このままこの崖から彼女の所へ羽ばたいて行きたい。


一歩下がって海を眺める。
どこまでも続く青、海と空の境目さえも青に染まる。
空に一羽の鳥。
俺の上を円を描くように回ると海と空の境目を目指して羽ばたいて行った。



end
/ 1574ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp