第778章 モンブランな彼女⑤
知り合ってから10年が経った。
武内は東京の大学に進学し、今は薬剤研究所で薬の研究をしている。
『月齢症候群』は患者が少なすぎて医者でも知る者はほとんどいない。
研究してるのも海外の一部の研究所だけだ。
そこが症状を抑える薬を開発した。
彼女は自分で自分の病気を治す薬を開発しようとしている。
俺は高校を卒業後、警察官になり今では刑事として頑張っている。
「…先輩、今日も暑いっすね」
後輩と半月前に起きた傷害事件の聞き込みに回っている。
秋空に飛行機雲が走っているのに残暑が厳しい。
事件が起きたのは帰宅する人も多い夜の駅前だった。
「…暑いが事件解決の為だ」
「けど、人が刺されたっていうのに誰も無関心なんすね」
目撃者はいるがはっきりと犯人を覚えている人がいなかった。
防犯カメラも犯人の顔ははっきりと映っていない。
容疑者は逮捕したが、犯行を証明するための裏取り捜査だ。
「…あの犯人、普段は真面目なんすよね?
なんであんな事をしたんすかね?」
「…魔が差したか、ストレスでキレたか?
…満月のせいかもな」
「満月っすか?そんな狼男じゃあるまいし…」
後輩は笑って済ました。
『狼男病』は本人の自覚なく発症する。
俺は病気で犯罪を犯す者を助ける為に刑事になった。
待ち合わせの場所に真っ赤なポルシェが止まった。
「お待たせ!」
久しぶりの休みは彼女の車でドライブだ。
「ほら、モンブラン買っといたぞ」
「ありがと……で、今回の犯人はどうやったん?」
「病気とは関係なかったよ
…ストレスが溜まってぶちギレた奴だった」
「満月の夜に紛らわしい犯人やね」
彼女も病気絡みの犯罪は気になっている。
「まぁ、今まで一人もいないのは幸いかな」
「そやね、この病気が世間で騒がれたらと思うと怖いわ」
「…なあ、俺達の子供はこれにならないよな?」
「さぁ?遺伝やないし何が原因かもよう分からんから…
でも、私《うち》が必ず治療薬を作るわ」
「頼りにしてるよ」
俺達は来月に結婚する。
end