• テキストサイズ

千分の一話噺

第773章 天の川の向こう


今年も七夕祭りが始まる。

7月初め、関東はまだ梅雨明け前でなかなか星空は見えない。
今年も祭りの期間中、ほとんどが曇り空だ。
祭りは地元の星影神社の境内に笹飾りを並べ、参拝者が短冊を吊るす。
表参道には屋台も並び、雨が降らなければ7日の夜には花火も上がる。


「はぁ…、今年もまたやるのか…」
幸司は心底この祭りを嫌がっていた。
「そもそも星も見えないのに七夕っておかしいだろ?」
旧暦の時代なら梅雨も明けて満天の星空だっただろう。
「…それに何で俺が毎年、彦星をやらなきゃならないんだ」
こっちが本当の理由である。

七夕祭りには織姫と彦星が天の川(神社にある池)を挟んで再会するイベントがある。
彦星役には神社の跡取りでもある幸司が、織姫役には幸司の幼馴染みで今はトップアイドルになった翔子が毎年選ばれている。

「…翔子、お前はもうアイドルなんだぜ
こんな田舎町のイベントに出て大丈夫なのか?」
「地元のお祭りだもん、プライベートだから全然平気よ」

翔子は平然と答え、幸司は憮然とした。

「見て、幸司!
今年も蓮がたくさん咲いてる!」
神社の池は『蓮池』と呼ばれ、昔から毎年蓮が花を咲かせる。
「あぁ…、今年は咲くのがちょっと早いな
これじゃあ、蕾を星に見立てた天の川にならないよ」
「あら、お花の天の川も素敵じゃない!」
翔子は蓮の花に見とれていた。

「はぁ…、本当に天の川の向こう側に行きやがって、手が届かないじゃないか…」
「…何か言った?」
「…何も
そろそろ準備しようぜ」

今年も七夕祭りが始まった。


end


/ 1578ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp