第771章 普通な冷やし中華
俺は出張で某県某市に来ていた。
「……暑い」
どこに行っても暑い。
もう日本中が沸騰しているようだ。
毎日毎日、真夏日、猛暑日の連続で茹だる。
こう暑いと食欲もなくなる。
どうしても冷たい物が欲しくなる。
「…冷やし中華ね」
これで3日連続だ。
出張先の支社の近くにある町中華だ。
「しかし、昼休みだっていうのに客いないな…」
特別じゃないが、普通に美味い店だと思う。
支社の人も食べに来ていない。
「…みんな食べ飽きたのかな?」
そういえば、支社の人は弁当やデリバリーで食べてる人ばかりだ。
「お客さん、この辺の人じゃないね?」
「…はい、出張で来てるんで…」
「そうかい、ゆっくりしていきな」
「今日、帰るんですけどね」
冷やし中華を運んできたおばちゃんは、薄ら笑いを浮かべて店の奥へ戻った。
「…これじゃあ、客もこないか?」
この薄暗い店にあのおばちゃんじゃあ、繁盛しそうもない。
冷やし中華を食べ終わると会社に戻った。
「毎日、どこに食べに行ってるの?」
弁当を食べていた同僚に聞かれ、あの店の事を話した。
「え?…あの辺りに店なんかないよ」
「古めかしい町中華があるじゃん」
「あぁ…、あそこのそばに新しい店が出来たんだ?」
「いや、その古い町中華だよ」
「何言ってんの?あの店は何年か前に強盗が……あっ
……仕事、仕事!」
同僚はそれ以上その話はしなかった。
他の人に聞いたのだが、あの店は強盗に入られおばちゃんは殺されたそうだ。
帰り際、店の前を通ったら『空き家』の看板が下がっていた。
end