第770章 太陽と月
親友の大木ひなたは、その名の通り太陽のように明るく、常にみんなの中心にいて、コミュ力の塊のような人だ。
私、月本瑠奈は正反対、人見知りでコミュ障で、友達もいないし、愛想笑いも出来ない。
知り合ったのは高校時代、まだレコードやカセットテープで音楽を聴いていた昭和だ。
放送部が昼休みに流す曲がきっかけで仲良くなった。
「月本さんもこの曲好きなの?」
「…え?…あ、はい……」
ひなたから声を掛けられ、私はおどおどしていた。
「私も好きなんだ!
良かったら私のうちに来ない?レコードあるから一緒に聴こうよ!」
放課後になると、半ば強引に彼女の家に連れていかれた。
「ごめんね、この歌手のファンって私の周りにいなかったから嬉しくて…」
「…うん、私も…嬉しい…」
それからはひなたのおかげで友達も何人か出来た。
月日が経ち平成になり、お互い名字も変わり家族ぐるみで仲良くしていた。
「まさか陽一が佳奈ちゃんと結婚するなんて思わなかったわ」
「うん…、小さい頃はよくケンカしてたのにね」
ひなたの息子と私の娘が結婚したのだ。
令和になると私はひなたと暮らしている。
お互いに連れを亡くし、子供の世話になるくらいなら二人で暮らそうとなった。
「…お米、買えないね」
「令和になって米騒動なんて…
パンも好きだけど、やっぱりご飯食べたいよね」
私達は備蓄米を並んで買った。
知り合ってから半世紀、まさかこんなに長い付き合いになるとは思わなかった。
「…ひなた、…あなたのお陰で、…私は幸せだったわ
…ありがとうね」
「瑠奈…
私はもう少し先になるけど、お土産話たくさん持っていくから待っててね」
ひなたは精一杯の笑顔を見せてくれた。
私はひなたに見守られながら眠りについた。
end