第767章 嵐の後の静けさ 後編
現場はオフィス街のビルの谷間、ゴールデンウィークに入ったばかりと言うこともあり目撃者は皆無だ。
捜査は現場を中心に広域的に防犯カメラの解析と被害者の交友関係の調査を進めた。
「…あの干し葡萄が引っ掛かるんだよな」
被害者は現場近くで食品関係の会社を経営していて羽振りが良かったらしい。
そんな人間が干し葡萄を持ち歩くのは疑問がある。
「…ふん、お前はあの干し葡萄が犯人に繋がると思ってるのか?
食品を取り扱ってる会社だからな、偶然ポケットに入ったんじゃないのか?」
俺の相棒は関係ないと思っている。
「干し葡萄をバラで扱わないだろ?小袋とかなら納得もするけど…」
「取引先をしらみ潰しに聞き込めば何か出るだろ?」
俺達は聞き込みを続けた。
地道な聞き込みと防犯カメラの解析で容疑者が浮上した。
現場近くの駅の防犯カメラの映像と聞き込みで被害者と揉めていた相手が一致したのだ。
「あなたは何故あの駅に?
家も職場も全然違いますよね?」
「……」
「被害者と揉めていたのを沢山の人が見てるんですよ!」
「あいつは…、あいつは安い輸入干し葡萄を高級国産品と偽って売り付けやがったんだ!」
容疑者は被害者が食品を卸していたスーパーの担当者だった。
被害者は容疑者の店に干し葡萄だけじゃなく、普通の茶葉を『新茶』と偽って売り付けていた。
あのポケットの干し葡萄は容疑者に試食させた時に紛れ込んだようだ。
聞き込みで分かった事だが、被害者は産地や賞味期限を偽装するなど、悪どい商売で暴利を貪っていた。
「まあ、被害者は自業自得だとしても、あんな奴の為に人生を棒に振る事はないよな」
「…人間追い込まれると理性が無くなるんだよ」
俺の相棒は常に冷静沈着だ。
「よし!事件も解決したし銭湯行こうぜ!」
「何で銭湯なんだ!?」
「今日はこどもの日だろ?俺がよく行く銭湯は菖蒲湯やってんだ!」
ぶつぶつ文句を言っている相棒を引き連れて馴染みの銭湯に向かった。
end