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千分の一話噺

第77章 花火の日


「ゴホッゴホッ…」
「どうした?風邪か?
夏風邪はなんとかが引くって言うぜ」
「うっさいわねぇ!
憲治(あんた)には関係ないわよっ」

憲治は私の幼なじみ。
スポーツマンでまあまあなイケメンなんだけど、幼なじみなんて小さい頃から知ってるからデリカシーの欠片もないのよね。

「梨華ちゃん、風邪?大丈夫?」
「あっおばさん、大丈夫ですよ」

憲治の母親がスイカを持ってきてくれた。
縁側に蚊取り線香を焚いて、花火が打ち上がるのを冷えたスイカを食べながら今か今かと待ち侘びている。
憲治の家の縁側で花火を観るのが毎年の行事になっていた。

「梨華は卒業したら東京だろ?」
「うん…」
「そっかぁ、こうやって花火観るのも今年が最後だな…」

憲治はそう呟いて空を見上げた。
私もつられて見上げれば、綺麗な天の川が横たえていた。

「憲治はこっちで頑張るんでしょ」
「まぁな、一応跡取り息子だし、これでもいろいろ考えてるんだぜ」

珍しく真面目な横顔に、ちょっとときめいている自分に気付いた。
憲治が振り向くと慌ててスイカを頬張る。
と同時に大きな音と共に大輪の花が夜空を彩った。



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